塩の味覚教育

1.うま味調味料の味覚障害

近年、若者のあいだに味覚障害が問題になっている。濃厚でコクのある味を美味しいと感じ、家庭の「おふくろの味」を美味しいと思わなくなっている若者が多いという。その背景には、幼児期のころから、化学調味料を大量に使う加工食品を食べ続けているうちに、濃い味に慣れ、自然の素材本来の美味しさを味わえなくなっているからである。

うま味調味料とは、うま味を刺激する物質を人工的に生成した調味料である。その主成分はグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などのナトリウム塩である。

かつては化学調味料と称されていたが、1980年代から自然イメージの転換を図るため、うま味調味料と呼び変えられるようになったが、化学調味料であることに変りはない。うま味調味料は、かつては石油たんぱくから作られていたが、現在では、砂糖を抽出した残りかす(廃糖蜜)を微生物に与えてグルタミン酸を生成させ、それを水酸化ナトリウムと反応させてナトリウム塩にする方法が主流となっている。

加工食品に塩が大量に使われるのには、ふたつの理由がある。ひとつは、長期間、店頭に置かれるので腐敗の防止のために、保存料、Ph調整剤、増粘多糖類などの添加物が使われ、添加物の味覚を隠すために、甘さを濃くする、辛さを濃くして濃い味にする。その結果濃い味に慣れると、薄い塩味や甘味を区別できなくなって認知閾値といわれる味覚障害の原因となる。

そして、もうひとつは、わが国では業務用の塩は、純度が高く経済効率の良い食塩(イオン膜塩)や精製塩を使う結果、塩辛さがいつまでも残るので、うま味調味料を大量に加えることによって、食塩の鹹味(かんみ)を抑え、コクのある美味しい味に仕上げるのである。

食塩はうま味調味料の味を引き立てる対比効果の働きと同時に、塩辛さを抑える効果を併せ持っている。本来、味を創る塩が行き過ぎたうま味調味料の味を隠すのに使われる、現代の皮肉な塩の新たな価値である。

スーパー、コンビニのカップ麺、即席スープ、かまぼこ、ソーセージ、だしの素、ポテトチップス、煎餅、その他あらゆる食べ物にうま味調味料が使われており、それを避けた加工食品を探すのは不可能である。うま味調味料を使った加工食品には「調味料(アミノ酸等)」と一括表示されている。これはグルタミン酸ナトリウム(MSG)を主成分とし、イノシン酸、グアニル酸などの核酸系調味料が混ざった複合調味料であることを意味している。どれだけ多くの化学調味料を使っても、調味料(アミノ酸等)と一括表示すれば許されるため、アミノ酸の健康的なイメージに隠れて、大量のうま味調味料が使われている可能性があり、淡泊で繊細な料理の味が分からなくなるという味覚障害の悪循環を招く一因となる。うま味調味料はナトリウム塩で、その約2.5倍が塩分相当量となるため、知らず知らずのうちに塩分の過剰摂取になってしまうことに注意したい。

 

2.たんぱく加水分解が創る味

加工食品の濃厚な味は、塩、化学調味料、タンパク加水分解物の三つをベースに人工的に造られた味である。カップラーメンやハンバーグ、パスタなど、ファースト・フードには、うま味調味料や従来の化学調味料によってつくられる単調なうま味では飽き足らず、コクのある濃厚な味をつくるのに、アミノ酸化合物の「タンパク加水分解物」が添加されている。

タンパク加水分解物は、たんぱく質を分解してつくられるアミノ酸である。その製造方法は、酵素を使ってたんぱく質を分解する方法と、塩酸を使ってたんぱく質を加水分解するふたつの方法がある。酵素による発酵法には、微生物を調整する塩が深く関与しているが、時間がかかるため、コスト的な理由から大豆カス、魚粉、肉のゼラチンなどから塩酸分解法を使って、アミノ酸をつくるのが主流になっている。

分解が終わった後の塩酸はアルカリで中和し、食塩にして除去。食品添加物ではなく食品として扱われている。

タンパク加水分解物を添加すると食品の風味を自在に作ることができるので、現在日本の加工食品に欠かせない食品添加物となっている。

タンパク加水分解物が子供たちの味覚を崩壊すると警告したのは、食品添加物の商社から塩の世界に転身した経歴をもつ『食品の裏側』の著者、阿部司氏である。

化学的に生み出された添加物をいろいろ組み合わせれば、豚肉、鶏肉も実際には使っていないのに、豚骨スープもチキン味も出来てしまう。品質の劣る食材を美味しくするのに、タンパク加水分解物という「魔法の粉」が使われていると告発した。 

最近のカップ緬やスナック菓子、レトルト食品の成分表示を見てみると、自然食材のエキスや酵母などが表記されていて、発酵による自然食品のイメージを装っているが、酵母エキスは、培養した酵母を原料に、培養技術により開発した酵素分解法製造したもので、酵母由来の旨味成分のコクと香りをつくりだすイノシン酸、グアニル酸を含んだ化学物質のエキスである。

もともと自然の食材には、うま味成分がある。塩がそのうま味を引き出す働きがある。きのこや肉類にはグアニル酸、魚介類にはイノシン酸やコハク酸といううま味成分が多く、トマトや玉ねぎなどの野菜も、うま味成分のひとつグルタミン酸が豊富に含まれている。うま味の相乗効果で美味しい味がつくられれば、うま味調味料を使う必要はなく、身体に優しい食事をつくることができる。

 

3.子供の健康を損なう偏食

近年、児童の肥満や骨折、アレルギー疾患が増えている。その背景には、朝食抜きの児童、ひとりで食事をする「個食」といった、児童の食環境の貧困化が問題視されている。核家族化、女性の社会進出、子供の塾通いなどにより、家族揃って食卓を囲む機会の少ない家庭などの社会的な要因も大きく影響しているが、日常的にスナック菓子、清涼飲料水、インスタント食品などのファストフードを食べる習慣が一番大きな要因となっている。教育現場では、栄養バランスの偏りや栄養不足が原因で、体力の低下や学習能力に問題を抱えている児童やすぐに”切れる” 情緒が不安定な子供が増えているという報告がある。

平成17年、子供たちが健康的な食事を摂り、食物のほんとうの味を知る、自分で食を選ぶ知識・能力を身につけるための教育を義務付ける、世界的に例のない食育基本法が施行された。ファーストフード社会の中で、自らの舌で食べ物の良し悪しを判断する能力、”選食力”を身に着け、自らの身を守ること、親に対しては家族一緒に食事をする習慣と子供の躾を掲げている。こうした食を通して健康管理の能力を高め、食文化の伝承、地球環境まで、複合的な食育をめざしている。

平成25年12月に「和食-日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録されて以来、農水省の働きで全国的に和食文化の保護・継承の運動が推進され、最近では、自治体が公民館に地域の子供たちを集めて子供料理教室が各地で開かれ、地元の伝統料理にはじまり、和食の煮ものづくり、菜園で育てた野菜を料理するなど、料理の体験をとおして和食文化に触れる機会がもたれている。

 

4.味覚をとりもどす塩味

食育の第一歩は、化学調味料や食品添加物の味とは異なる、自然な食材の美味しさを発見する味覚体験である。人の身体の中で最も敏感な場所は舌である。この部分に対応する脳は早くから発達、幼少のころの多様な味覚刺激は脳の活性化に深く関わっており、人の脳は3歳から10歳までにまで完成するといわれる。

この間いろいろな食べ物の味覚が脳を刺激し、記憶される。食べ物の記憶が多ければ多いほど、味の違いを識別する能力が増して、食べる楽しさや繊維な味覚が育つといわれる。

東京のあるイタリア料理店のシェフは、子供たちに新鮮な野菜に自然海塩を振ったサラダを食べる料理教室を実践している。シンプルな塩味だけで生野菜の美味しさを体験することで、これまでのファーストフードの味とは全く異なる未知の味を発見し、驚く子供が多いという。つぎに豆腐や茹で卵、トマトに塩など、塩を振って食べる体験を通して、しだいに食べ物の味に敏感になってくるといわれる。

ちなみにサラダの語源は、塩を振って食べることを意味し、ラテン語で塩のSalに由来している。野菜のみのシンプルサラダは塩で食べるのが基本になっている。

新鮮な生野菜のほのかな甘さや香りが塩を使うことによって、味の輪郭がはっきりしてくる。ハンバーグ、カップ麺の濃厚な味覚に慣れた子供の舌が本来の味覚を取り戻すことができる。

和食の基本である昆布だし、鰹だしをつくる子供の料理教室では、味の薄いだし汁に塩を少々加えるだけで旨味ができる初体験に驚く子供がいるという。

児童の感想には「だしの効いて美味しい」、「家でもつくってほしい」、「素材の味が分かった」等々、塩はそれ自体に風味やうま味はないが、食材の持つうま味をぐっと引き出し、「味を創る力」があることを知る。自然の食材本来の美味しさを最大限に引き出す塩味は、和食を支える基本調味料である

食べ物は人の心身を健康に維持するのに欠かせない。自然な美味しさを味覚体験することによって、自ら適切な食品の選択できる能力を培い生きる力となる。

 

広告

増田 幸右 について

1964-1968 武蔵野美術大学 グラフィックデザイン科卒業 1968-1994 広告代理店電通入社 クリエーティブ・ディレクター 2002-2004 立教大学大学院 修士課程 2003-2008 (株)GN21 経営コンサルタント 2007-2010 浦安図書館ボランティアBCU会員 2010-2014 企業ブランドアドバイザー 2006-2014 日本海水学会員
カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中