Ⅴ.減塩から適塩へ

1.ミネラルバランス

人の身体を元素に分解すると、酸素、炭素、水素、窒素の四つの主要元素から成り、全重量の97%を占められ、残りのわずか3%がミネラルである。栄養学でミネラルとは、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミンと並んで五大要素のひとつで、鉱物を意味し、食物の中の無機成分を総称してミネラルと呼んでいる。

塩は、このうちのナトリウムと塩素できた白い結晶であるが、食用の塩は、純粋に塩化ナトリウムではなく、微量ミネラルを含んだミネラルの集合体である。すべての食用の塩は海水に由来し、海水には100種類以上のミネラル(塩類)が溶けており、塩は海水ミネラルの塊である。

地球上のすべての動植物は、それぞれミネラル間の保存比率(ミネラルバランス)の均衡もって生命を維持している。ミネラルは、相互補完によって機能を発揮する働きがある。たとえば、カルシウムの吸収には、マグネシウムがなくてはできない。ミネラルバランスを保つことが生命体の働きに最も重要で、ミネラルの均衡を崩すと、さまざまな病気を引き起す。

ミネラルバランスの身近な例に、応急手当てに使う点滴のリンゲル液がある。リンゲル液の組成は細胞外液と似たミネラル組成の液体で、多量の出血や脱水状態による電解質のバランスが乱れて、血液量が減少すると、血圧が下がり、腎臓から老廃物を排泄できなくなるので、応急処置に点滴が使われる。

このミネラルバランスを整える重要な役割を担っているのが、体液を常に一定に維持する塩の存在である。体内には大人の男性で平均250gの塩分を抱えいるといわれ、体液の塩分濃度は0.9%に保たれている、人は塩漬けの生き物である。

人には体内の塩分を一定に保つには、生理的に求められる塩分は、この0.9%の維持にある。このため消化・吸収・排泄の新陳代謝のプロセスで失われる塩分を、毎日の食事から補給する必要がある。

汗をかいて塩分不足になったとき、塩の効いたご馳走の後には喉が渇いて水分が欲しくなる。また腎臓が正常な限り、余分に摂取された塩分は体内にとどまることなく、尿となって体外に排泄され、自然に均衡が保たれるようになっている。

 

2.塩の毒と薬の分岐点

ミネラル(塩)には毒と薬の分岐点がある。科学の世界では純粋な塩化ナトリウムは劇薬である。塩を過剰摂取すると身体に害をもたらし、反対に過剰な減塩が減塩症候群の原因となる。減塩の是非に関して、いまだに科学的なデータがなく、塩と健康の研究調査は、免疫学的な観察調査の域を出ていない。

わが国の専売体制のもとでは、塩化ナトリウムの純度を塩の品質の評価基準にしていたので、それ以外のミネラルは、夾雑物として扱い、一貫して海水塩のにがり(微量ミネラル)を否定、ミネラルは食物から摂取するもので「煮干し一匹にも値しない」と微量ミネラルの価値を無視してきた歴史がある。

近年、ミクロの世界における分析技術の向上で、一万分の一グラム、百万分の一グラムいう超微粒元素の検出が可能になり、微量元素の働きが解明されてきている。

ミネラルは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素、硫黄の五つの必須ミネラルで占められ、残り1%が微量ミネラルである。微量ミネラルの価値は、それがごく微量であるだけに、なおさら重要で、新陳代謝を活性化する大切な役割を担っている。

人の身体には、鉄、クロム、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルト、砒素など数十種類の微量ミネラルが存在しており、免疫やホルモン、老化など、健康や病気と深くかかわっている。

1989年、日本で開催された「国際微量元素医学会議」で、「重金属だってヘルシィ」と題したシンポジュウムで、公害や環境汚染の元凶となった有害物質のカドミウム、マンガン、銅、亜鉛、クロム、鉛、水銀など、重金属が生命を維持するうえで必須の元素であることが明らかになり、話題となった。

ドイツのカール・マルクス大学のアンケ博士は、イタイイタイ病で問題となったカドミウムも生命活動に必須で、不足すると筋無力症の原因になると報告している

微量ミネラルは、必要量の上限と下限の幅が非常に狭い元素である。不足しても摂りすぎても身体に弊害をもたらすため、厚労省は「食事摂取基準」で上限値を発表している。薬品の場合には、薬事法で微量ミネラルは、ほとんど毒物扱いである。

国際保健機構(WHO)の食用塩の規定では、以下の品質規格を定めている。

□コーデックスの食用塩の品質規格-

As(ヒ素)=0.5mg/kg以下

Cu(銅)=2mg

Pb(鉛)=2mg/kg以下

Cd(カドミウム)=0.5mg/kg以下

Hg(水銀)=0.1mg/kg以下

*出典:『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

3.二つの適塩

「旨いまずいは塩加減」といわれるように、一瞬の塩加減で料理が美味しくなるかどうかが決まる。そのわけは、塩には美味しいと感じる味覚の幅が非常に狭いからである。塩味を識別できる最低濃度を塩の「閾値」といい、食塩を水に溶かして一定の条件で多数のひとが味見したときに半数の人が感覚的に塩分の違いを感ずる最小の数値が塩の閾値である。多くのひとが塩味を感ずる濃度は約0.3%以上で、これを薄めてゆくと甘く感じられ、しだいに水と区別がつかなくなる。

塩味を美味しいと感じる塩分濃度は、0.8から0.9パーセントくらいの濃度で、それよりもわずか0.2%少ないだけで薄く感じられ、多いと塩辛い。限度を超えた塩辛い料理が食べられないのは、舌の味覚センサーが身体を守っている証である。

とくに和食では、塩辛い惣菜であっても、ご飯と一緒に咀嚼することで、塩分が希釈されて、食べ物が美味しいと感じる塩分濃度になってから、のどを通る。

私たちの体液の塩分濃度は0.9%に維持されており、美味しさを感じる塩分濃度と一致している。美味しいと感じられる塩分は身体が求めているサインである。

人の生理的な本能に準じて摂取するのが、自然な塩の摂取で、減塩に対して、「適塩」と呼ぶことで、塩に対する価値観が一変するのではないだろうか。

塩は料理を美味しくするもの。塩気のない料理は美味しくないので食欲がわかず、必要な栄養素が摂れなくなる。塩分をあまり気にせずに、美味しい食事から必要な栄養をバランスよくとり、質の高い生活(クオリティ・オブ・ライフ)を維持できる塩分摂取こそ、その人の適塩基準といえる。

減塩思想にとらわれていると、美味しい料理を楽しむことをもできず、いろんな病気を招きかねない。塩をよく知ることによって、根拠のない減塩思想は捨てて、豊かで健康的な食生活を心掛けることが大切である。

 

4.コラム 塩の民間療法

昔から塩には強い殺菌力があり、消毒効果のあることはよく知られている。古事記に「因幡の白ウサギ」の神話がある。オオクニノミコトが、ワニに毛皮をはがされて泣き悲しんでいた白兎に「海水を浴びて乾かしたあとに、淡水でからだを洗ってガマの穂にくるまれ」と教えたところ、白ウサギは元どおりの身体に戻ったという。

薬草や薬石が記された中国の古い文献『本草網目』がわが国に伝わり、塩の民間療法が広まった。江戸の庶民を相手にした町医者のなかには、腹痛、下痢、頭痛、風邪、眼病、貧血と、どんな病気にも、「苦塩」を投与したことから、“にがり医者”とばれていた。現在の漢方では「毒をもつて毒を制する」という発想から、微量な毒が眠っている自然治癒力や免疫力が刺激されて活性化する作用を活かして、病気の治療に使われている。

近代の薬のルーツは塩である。中世ヨーロッパで“貧者の塩”とよばれていた、塩釜の底にこびり付いた塩が薬の発見の発端となっている。18世紀、ドイツの医師J・A・ウェーバーは、このにがりから医薬品や染色剤などの原料となる物質をとりだす技術を発明。ドイツは化学薬品の発祥地となったのである。わが国には江戸時代に長崎の蘭学を通して広まり、西洋医学の礎となったのである。

日常生活のなかで塩の持つ化学的な力を利用した、昔からいろんな民間療法が伝えられている。渋沢敬三著『塩俗問答集』には、塩の民間療法に関して、全国を調査した膨大な聞き取り調査が載っている。

□風邪予防やのどの腫れ

薄い塩水でうがいをすると、塩の殺菌力によって風邪の予防となり、風邪を引いてしまったときには、濃い番茶に塩を入れて飲むと痛みや解熱に効果がある。扁桃腺やのどが痛むときには、フライパンで煎った塩を布に包み、痛いところに一晩当てておくと痛みが和らぐ。鼻炎に罹ったら、塩水で鼻をすすぐと炎症が静まり、塩水でうがいすると、口内が殺菌されてのどの腫れを鎮め、風邪を予防する効果がある。

□塩湯を飲む

便秘や腹痛に、やや濃い塩湯を飲むと効果があるのはよく知られている。市販の下剤薬には硫酸マグネシウムが入っており、にがりには腸を整える働きがある。

腹痛や下痢に焼いた塩を布で包んで患部に当てると、身体がポカポカとしてつらい症状がおさまる。昔は地方によって、健胃、二日酔い、暑気あたりの予防として毎朝一合の塩水を飲む習慣があった。

□眼病治療

眼病には、はやり目、ただれ目、結膜炎、トラホーム、網膜炎と、いろんな症状がある。江戸の町には砂埃が原因で眼病が多かったといわれ、塩水で眼を洗って治療したといわれる。『塩俗問答集』には、愛媛・清水村では眼病に梅茶で目をなでて治す、栃木県の秋田・神代村では、かすみ目・ただれ目に塩湯で洗う習慣があることが記録されている。

□茄子の黒焼で虫歯予防

毎朝、塩で歯を磨くことは、歯茎を引き締めて、歯周病や歯槽膿漏を予防する。虫歯予防に昔から”効能あり”といわれているのが、「黒焼き茄子」。茄子のヘタの塩漬けを黒焼きにしたものを手で歯茎にすりこむ治療法である。むかし長野県の山村では、ハコベを石でつぶして、塩と混ぜて紙で包み囲炉裏の中に埋め、歯磨き粉として使われ、ハコベ塩とよんでいた。

□塩茶を飲む

お茶にひとつまみの塩を入れて飲むと風邪の予防効果、食中毒・嘔吐剤に塩が効果を発揮、二日酔いに塩湯を飲むと治るのは、多くの人は体験で知っている。

子供に寝るまえに塩をオブラートで包み、これを飲ませると寝小便の予防になり、またヨモギのお茶に塩を入れて飲むと回虫の駆除になるともいわれ、今も各地に民間療法として伝承されている。

□塩で洗顔、皮膚病に塩

塩水には洗浄の働きがあり、塩で身体を洗うと毛穴に詰まった汗や皮脂を落とし、新しい皮脂の分泌を促す効果がある。昔は子どもの頭のおでき、汗疹に塩をすり込む、塩水に浸けるなど、塩の殺菌力には皮膚病を治す力がある。

また塩でシャンプーすると頭皮の皮脂が落ち、フケや抜け毛が減ってくる。今も皮膚の疾患やアトピー性の皮膚炎を海水で治す海洋療法が施されている。

このほか、塩の民間療法には、毒虫や蚊に刺されたときに塩水で洗う、しもやけや雪焼けを塩湯で洗う、水虫ににがりを溶かした水に足をつける、頭痛に塩を塗りつけて治すなど、むかしから塩は万能に効く治療薬に使われ、塩の民間療法は先人たちが経験からうまれた知恵の集積である

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増田 幸右 について

1964-1968 武蔵野美術大学 グラフィックデザイン科卒業 1968-1994 広告代理店電通入社 クリエーティブ・ディレクター 2002-2004 立教大学大学院 修士課程 2003-2008 (株)GN21 経営コンサルタント 2007-2010 浦安図書館ボランティアBCU会員 2010-2014 企業ブランドアドバイザー 2006-2014 日本海水学会員
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