Ⅲ.減塩の代償

1.減塩症候群

減塩こそ健康維持の鉄則と考えている人に、塩分摂取は少なければ少ないほど良いとった考えにとらわれる人も多い。しかし塩の過剰摂取にだけに焦点があてられ、行き過ぎた減塩による健康障害の問題を思い浮かぶことはないだろう。

「減塩をし過ぎて死亡したひとの数と、食塩の摂りすぎによって死亡したひとの数とは、どちらが多いかわからない」と減塩の行き過ぎを警告した米国の研究者の言葉が記憶の隅にある。塩に過剰に反応する塩減症候群は現代病ともいえる。

近年、熱い季節になると、熱中症で倒れて病院に救急搬送される人のニュースがしばしばマスコミの話題になる。熱中症は、暑さで体内の水分と塩分のバランスが崩れ、体温調節機能が低下し、めまいや手足のしびれ、頭痛や筋肉痛、ひどい場合は痙攣や意識障害を起こし死亡する危険もともなう。

全国で救急搬送された熱中症患者は、2014年で4万1509人、2015年には5万4698人と一万人以上増加、その半数が65歳以上の高齢者が占めている。

熱中症の応急手当は、一般的に生理食塩水の点滴が施される。電解質バランスを取り戻すために、血液に含まれる塩分濃度を高めることが先決である。

高齢者は、持病の高血圧や心臓疾患などの生活習慣病に罹っている人が多く、医師から厳しい塩の制限を指導されて減塩を続けているうちに、低ナトリウム体質になっているからである。身体はナトリウム(塩)が不足すると体内の塩分濃度を保つため、汗や尿などからナトリウムの排泄を制限して体内の水分を調節しようとする。その結果、脱水で血液量が少なくなり、脳への血流が減り、しびれやめまい、ふらつきがおこる。

また、胃液などが少なくなって食欲減退や脱力感が生じ、汗を大量にかいた後に塩分補給が少ないと筋肉のナトリウムが奪われて筋肉痛になり、さらに体内の塩分濃度が一気に下がると、神経の伝達が正常に働かなくなって昏睡や意識障害の状態に陥る可能性がある。このように塩不足起こる不快な症状を「減塩症候群」とよばれている。近年の熱中症の増加は、減塩思想に一石を投じる象徴的な現象である。

 

2.高齢者の減塩に注意

高齢化社会を迎えて高齢者の医療・介護の現場では減塩症候群が身近な問題になってくる。医師や栄養士の指導による塩気のない病院食や家庭の介護食に反映されないだろうか、塩分摂取の過剰反応が危惧される。

病院食の現状は、一日当たり塩分6グラムを基準に塩分制限されており、お椀に一杯に2gも塩分のある味噌汁や、漬物がメニューから省かれ、薄い味つけで食欲を失うことで、かえって健康を損なうこともある。加えて、塩の摂取量は食事の量に比例する。高齢になると食欲が落ちて食事量が減るために、十分な塩分の補給ができないので塩不足になりがちである。

そのうえ、加齢で腎機能が衰えてくると、腎臓での塩分の回収が不十分のため、ナトリウムが尿として排泄されて低ナトリウムになる可能性が高くなる。

ある開業医の失敗談に、77歳の高血圧患者に浮腫の治療に利尿剤を処方したところ、突然、急性塩化トリウム欠乏症で歩けなくなって全身痙攣がおきたので、生理食塩水を点滴したところ、その翌日にはすっかり回復。あらためて利尿剤による危険を認識した。この医師は70歳以上の高齢者には原則、減塩は控え、食塩感受性を判別してから、減塩の指導をするようになったという。

食はいのちであり、ひとを幸せにする。減塩運動と表裏一体となって高齢者の介護や病院食に関して、栄養バランスの良い美味しい献立の工夫に配慮がなされることが期待される。

 

3.減塩志向と食品の低塩化 

消費者の減塩志向により、味噌醤油、漬物、塩辛などの発酵食品の低塩化が一段と進んでいる。店頭の加工食品には、塩が本来持っている力、腐敗を防ぐ保存力や殺菌力、鮮やかさを引き出す力、酸・アルカリ度の調整力、発酵の調節力などを代替するのに、多くの食品添加物が使用されている。

経済のグローバル化でアメリカやEU諸国などで使用が認められている食品添加物が許可され、わが国の合成添加物の数は、431品目に上っている。

加工食品には、食べものを長持ちさせる保存料、美味しさをつくる調味料や甘味料、見た目を良くする着色料など、複数の食品添加物が含まれ、化学物質の摂取から逃れられない食の環境にある。

低塩化の最も顕著な食品は梅干しである。梅干しの漬物業界はこの15年間、減塩競争に明け暮れ、昔は塩が20%使われていた梅干しが、現在では塩分が5%まで低塩化されている。食品の腐敗菌は、濃度が10%以上になると増殖できなくなる。しかし、今のような5%程度の塩分では腐敗を完全に防ぐことはできない。

そこで、いったん塩漬けした梅を塩抜きした後、調味料やはちみつ、アルコール、昆布エキスの液につけて、味を調えた低塩梅干しが主流となっている。

同じように塩分が多いと敬遠されてきた野菜の漬物も、工場から店頭で売られる間に、腐敗を防止するために保存料のソルビン酸、pH調整剤、防カビ剤など、数々の化学添加物を使用し、腐敗して商品性を失わないために使われている。

現在、輸入ワインに酸化防止剤の亜硫酸塩が添加されているが、亜硫酸塩は二酸化硫黄で、酵母や雑菌の増殖を抑えることができる毒性の強い添加物である。国内では、亜硫酸塩は明太子のおにぎりやハムなどの鮮やかな赤い着色と保存に広く使われている。すでに欧米では発がん性があると問題になった添加剤である。

かつては鮮魚に使われていた塩に替わって、鮮度の日持ちと殺菌、カット野菜の洗浄に使われているのが、毒性の強い添加物の次亜塩素酸ナトリウムである。

わが国ではむかしから塩の働きを活かして、長い時間をかけて味噌醤油をはじめ、多くの塩蔵食品をつくってきた歴史があるが、その塩分量は保存だけではなく、発酵食品の旨みをつくるのに、最適な塩分量だったのである。化学添加物が造る、コクのある濃い味が伝統的な和食の味を変質されないか、憂慮する声もある。

このほか、塩味に似た味覚のカリウム塩が塩分50%を謳い文句にして塩の代替として売られている。米国ではライトソルトの商品で売られ、ラベルには、腎臓障害の危険性があり、医師のチェックが指示されているが、日本のカリウム塩には明記されていない。カリウムは筋肉弛緩剤として使用される薬物で、わが国の病院食には、心臓への悪影響を配慮して、サラダや果物などのカリウムを含んだ食材は制限されている。

かつて江戸時代の食料飢饉の原因は、飢えをしのぐのに山菜や木の皮を食べ、“塩なし病”として恐れられていたが、現代の医学から診ると、実は死因は高カリウム血症であったのである。

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増田 幸右 について

1964-1968 武蔵野美術大学 グラフィックデザイン科卒業 1968-1994 広告代理店電通入社 クリエーティブ・ディレクター 2002-2004 立教大学大学院 修士課程 2003-2008 (株)GN21 経営コンサルタント 2007-2010 浦安図書館ボランティアBCU会員 2010-2014 企業ブランドアドバイザー 2006-2014 日本海水学会員
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