Ⅰ.命は海から

1.生命を支える塩

ひとは進化していくにつれて、「内なる海」である体液の濃度を一定に保もつことで、生命を維持する仕組みができた。その役割を担っているのがミネラル「塩」である。

塩の浸透圧が体液の電解質のバランスを維持する力を発揮し、「ホメオスタシス」とよばる、生命の恒常性を維持しているのである。

60兆個の細胞のひとつひとつは細胞外液という塩化ナトリウムを主成分とする体液の中に浮かんでいる。正常に細胞の機能を維持するには、細胞外液と細胞内液の浸透圧が同じであることが必須の条件である。細胞外液の浸透圧が変動すると細胞が障害されるか、収縮して生命の危機におちいるので、細胞の縮み、膨らみ過ぎで細胞が壊れないように、塩の濃度をいつも一定に保たねばならないのである。

塩には水分バランスを整える働きがあるのだ。汗をかいたときや、塩辛いものを食べたあとで水を飲みたくなるのも、血液中の濃度をいつも一定に保つために、生理的に塩分の補給を求めるからである。

ひとの身体は60兆個の細胞から成り立っており、細胞外液の主なミネラルは、塩化ナトリウムで、細胞内液の大半はカリウムが占めている。ふたつのミネラルは、細胞膜のナトリウムチャンネル通して細胞に出入りし、細胞が正常に機能するように体液の濃度を調整している。

細胞外液と細胞内液の浸透圧が同じであることが必須の条件である。もし、細胞内液が外部よりも濃度が高くなると、濃度を一致させるために細胞外液から細胞膜を通して水分が入ってくる。すると細胞は水膨れし、細胞は破壊してしまう。これとは反対に細胞外液が内部よりも濃度が高いときには、細胞内液が出ていくために細胞がしぼんでしまう。このようにナトリウムとカリウムの電解質のバランスが崩れた状態は生命の危機を招く結果になる。

塩分バランスをコントロールに重要な役割を果たしているのが腎臓である。ひとの体内には、成人男性で約250グラムの塩分が含まれているといわれ、尿や汗となって塩分が失われていくため、つねに補充して血液の塩分濃度を常に一定に保つ必要がある。摂取した食塩は100%近く吸収されて体内に入り、血液中の塩分は腎臓の糸球体でろ過され、余分な塩分は尿として排泄される。血液が尿細管を通るあいだに、ほとんどの塩分が再吸収され、摂取したナトリウム量だけ排泄される。 

腎臓は塩分をいかに排泄するかではなく、いかに体内に残すかという方向に働いているのである。腎機能に障害のあると、ナトリウムの回収の働きが悪くなって高カリウム血症を招き、心臓に大きな負担をかけることになる。塩分を排泄する機能が低下すると、体液に塩分が溜り、塩分を排泄するのに高い血圧のちからが必要になる。

 

2.生命活動する塩の力

塩は塩化ナトリウムを主成分で、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどの微量ミネラルを含んだミネラルの塊である。身体に入るとナトリウムイオンと塩素イオンとに分れ、腸に吸収されて血液に入り、全身を巡って細胞の新陳代謝を助ける働きがある。

最初の消化活動では、塩素イオンは胃酸の主成分となり、胃液や胆汁などの消化液となって、食べものの殺菌や消化活動を行う。強酸性の胃液で消化された食べ物は、弱アルカリ性の小腸に移動、酵素によって、ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸などの栄養素になって吸収され血液に運ばれる。

この際にナトリウムイオンが消化酵素の触媒の働きをサポートし、栄養分と酸素を全身に運ぶ役割を担う。このほか、腸の壁の老廃物の溶解と蠕動運動を高め、腸内の異常発酵を防止する効果を発揮するのである。

また、ナトリウムイオンには体液のpHを調整する働きがある。pHとは、酸性・アルカリ性を示す値で、炭酸ガスや有機酸、アミノ酸によって血液が酸性に傾くのを防ぐのに、常に血液のpHが7.4の弱アルカリ性に保つよう、酸・アルカリのバランスが維持されている。

ナトリウムイオンには触覚、聴覚、味覚などの刺激を神経細胞に化学反応や電気信号によって伝達し、心臓をはじめ筋肉を動かし神経を働かす役割がある。

刺激の伝達は、神経細胞を通して電気信号によって脳に伝わっていく。細胞外液には大量のナトリウムイオン、細胞内にはカリウムイオンがあり、イオンバランスによって細胞内はマイナスの電位を保っており、神経が刺激を受けるとナトリウムイオンが細胞内に流入し、細胞内の電位がプラスになる。

そして、少し時間をおいてカリウムイオンが流出し、元のマイナス電位に戻り、これによって電気信号が伝達される。ナトリウムイオンによる神経伝達は心臓をはじめ筋肉を動かし、カリウムは筋肉や血管の弛緩、神経の興奮の正常化、ナトリウムを尿として排出し、体液のバランスを保つのに働いている。先に述べたように細胞外液と細胞内液の浸透圧が等しく釣り合うことで、電解質バランスを保つ働きがある。

 

3.塩は活力の源

食べることは生きること。塩には食欲をわかせる力がある。塩味の刺激で食物が美味しく食べられる。ひとの生命を維持するうえで極めて重要な行為である。ひとは食欲によって生命を維持していると言っても過言ではない。

人間の体液には、電解質、アミノ酸、脂肪酸など、さまざまな栄養素が含まれ、細胞を養っている。栄養素を補わないでいると、体重が減少して深刻な状態となる。

古代中国では、塩は身体を温める陽性の食べものとされ、ひとを元気にする活力の源と考えられ、史記には、戦いに敗れた捕虜の兵には塩を与えないということが記されている。食事の塩気を抜くと、兵士は元気を失い、略奪や反乱などを起こさなくなって、大人しくなるからである。

兵には塩を与えないということが記され、塩気を抜くと、兵士は元気を失い、略奪や反乱などを起こさなくなって大人しくなるからである。

塩不足で無気力になる理由は、臓器の筋肉を動かす力が出なくなり、神経の伝達作用が低下していくからである。漢方では「肝腎かなめ」の腎とは、腎臓、生殖器、泌尿器を含めて生命力をさしており、塩分が不足すると、腎気が衰えるために、脱力、痙攣・しびれ、筋肉の機能障害などの症状が現れるといわれている。

同じ理由で、体液のミネラルバランスが崩れて自律神経失調症になり、消化・吸収や老廃物を体外に排泄する新陳代謝が衰える。それがもとで、過度の発汗、嘔吐、下痢、脱水症、不眠症などで体調を崩す、未病の兆しと診られている。

塩は身体を温めて元気にするだけではなく、体温を調節する働きがある。暑いときや運動をした後に汗をかいて水分を蒸発させて体表面の温度を下げる。逆に寒いときにはトイレか近くなるのは、体内の塩分濃度を高めて身体を温めようと尿を排泄し、体温を調節する。ロシアや北欧などの寒い国に住む人は、身体を温めるために塩辛いものを好む傾向が強いといわれる所以である

 

4.コラム 塩と草食動物

草食動物は、カリウムを多く含む植物を多食するため、ナトリウムの不足をきたし、塩分を欲しがるようになる。家畜の牛は一日に80グラム、馬は40グラムの塩を必要とし、カバは500グラムも摂取する。野生の象や鹿、牛などの草食動物は、塩分を含んだ塩泉、沼地にある「塩なめ場」を求めて、平原に群れをなして移動する。

民俗学者の宮本常一は著書『塩の道』のなかで、塩を運ぶ夜には、オオカミが来るから必ず焚火をして野宿したといわれ、山の中で働いている人たちは立ち木や壺の中に小便をすることを固く禁じられていた。壺に小便がたまるとオオカミだけではなく、鹿が舐めに来るので、そのときには必ず底の抜けた桶を使ったといわれる。

トナカイが人間に飼育されるようになったのも、人間の尿に含まれている塩分を舐めるために人間に捕獲され、家畜になったという話が伝わっている。

ライオンなどの肉食動物が塩を欲しがらないのは、獲物となる動物の肉にナトリウムが多く含まれているため、あえて塩分を摂取する必要がないからだといわれる。

また、塩は動物の繁殖に深く関わっており、アフリカ象の生息数とその土地の塩分濃度を調べたところ、繁殖率が高いという報告もあり、家畜の場合は、必要な塩分を充分摂らないと子を産まなくなり、順調に育たない。古くから家畜用の飼料には、鉄、銅、コバルト、ヨード、カルシウム、マグネシウムなどの入った固形塩がつくられている。

酪農業では、専売公社の高純度な食塩を与えると、流産や病気の発生がふえるので輸入天日塩を飼料に使っていたといわれている。

私たち人間も草食動物とおなじように、塩を摂取しなければ生きていけない生き物である。人間の歯が臼歯や小さな犬歯のかたちに進化してきたのは、祖先が食べていた食物が草や木の実、穀物であったことを物語っている。

ひとは生存するのに必要以上の塩嗜好があるのは、その根底に草食動物と同様にたえず食塩の欠乏に悩まされた苦い経験がインプットされていることが、現代人の塩中毒ともいえる塩の嗜好が強い原因だといわれる。

広告

増田 幸右 について

1964-1968 武蔵野美術大学 グラフィックデザイン科卒業 1968-1994 広告代理店電通入社 クリエーティブ・ディレクター 2002-2004 立教大学大学院 修士課程 2003-2008 (株)GN21 経営コンサルタント 2007-2010 浦安図書館ボランティアBCU会員 2010-2014 企業ブランドアドバイザー 2006-2014 日本海水学会員
カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中