塩と人が織りなす世界

自然園健康法

「自然海塩健康法」武者宗一郎著 講談社

塩は“しょっぱい” このほかに塩の味を表す的確な言葉が見つかりません。塩の辛さを表す漢字は「鹹(かん)」、塩味のしょっぱさを鹹味といい、この味覚を代替できる調味料がほかにないので、ひとつの言葉で十分意味が伝わります。

では、なぜ塩はしょっぱいのか、なぜ塩がないと生きていけないのか、知っているつもりなのに、塩の「なぜ」には知らないことばかりです。

今から45年も前に、日本専売公社の広報室が、『塩の話あれこれ』というPR小冊子を出版、このまえがきに「昔から塩は米塩の資といわれてきたように人間が生きるためには塩はなくてはならないものである(中略)そして今、塩は生産から販売まで滑らかに流通し、安定した価格で、水や空気と同じように、一般家庭の台所につながっている。しかしあまりにも身近で、手に入りやすいために、塩の持つ貴重な価値が、ともすれば人々の脳裏から忘れがちではなかろうか」と書かれています。

塩は人間の生命を維持し、暮らしになくてはならない生活必需品で、食文化を支えている存在でありながら、わが国では、水や空気のように、あえて意識しないで暮らしています。食品のなかで最も安く、どんな塩も塩化ナトリウムであれば塩はみんな同じという先入観があるからでしょうか。

国民の塩への関心や価値観が変わらないのは、専売100年の間に、塩は国から支給されるもので、あえて考える必要もなかったことでしょう。

「たかが塩、されど塩」 塩に興味をもった一番の理由は、知れば知るほど塩の世界は幅広く、日常気づかなかったことを知る楽しさにあります。

それが塩の物語の魅力です。先人の築いた塩の文化の軌跡をたどっていくと、いつも新たな発見があるからです。塩の歴史はひとの誕生と同時に始まり、社会を形成し、ひとと塩が関わる塩の文化は、長い歴史を経た奥の深い世界があります。

この本は、塩の文化の視点から、塩の歴史と伝統の中ではぐくまれてきた塩の普遍的な価値を再確認し、「塩は身体に有害」という先入観や「塩は塩化ナトリウム」というサイエンスの固定概念をすてて、新しい塩の価値、塩のブランド(信頼・支持)の回復を願って書き記したものです。

塩の世界を把握する方法として、ひとと塩とが織りなす塩の世界を一枚の織物の絵柄を紡ぐことで、塩のほんとうの姿が浮かび上がってくるのではないかと思い、縦糸にいろいろな文化の歴史の糸を張り、横糸には塩と食文化の糸を通して塩という一枚の織物を織るように、塩の世界を描いてみました。

 

□塩と文化の縦糸

文化の発祥…塩地周辺の集落形成 世界四大文明の発祥

宗教・風俗….キリスト教と塩 塩の象徴性とことわざ 清めの塩

政治・経済….塩・塩漬魚の交易 塩の道 塩税 専売制 塩地を巡る争い

食文化……..食物史 料理・食生活 塩蔵食品 調味料 

戦争と塩……戦の兵糧 化学工業の振興 戦費の財源 

いのちと塩…生命を支える塩 海水ミネラル 草食動物と塩 減塩の代償

産業の糧…..産業革命による工業の近代化 化学工業の原料塩

農業と塩……化学肥料 ミネラル農法

 

□塩の横糸

塩づくり……濃縮塩水(採鹹)・塩釜(煎ごう)の歴史

塩の流通….その時代の塩業

塩の消費….その時代の料理文化

 

第一章の「塩の世界」では、世界の普遍的な塩の文化の歴史を振り返り、塩の物語の全体像を俯瞰します。第二章の「美味しい塩の系譜」では、土器製塩から始まる、わが国の塩づくりの歴史を通して、一筋の糸のようにつながっている洗練された美味しい塩づくりの伝承を見つけて、ひとつひとつつなげていきます。

第三章「塩の近代化」は、化学工業の進展により“食べる塩”が工業の原料塩へと変容していく塩業の軌跡を追っています。塩の価値が食用の塩から塩化ナトリウムの純度の高い工業塩に移った歴史の転換点を再検証します。

第四章、「身体に優しい塩」は、工業的なイオン交換膜製塩によって塩の質が変わり、東洋的な塩の思想に基づいた「いのちの塩」を再発見し、わが国の身体に優しい塩の系譜をたどっていきます。第五章の「料理を美味しくする塩」では料理・調理を通して「塩とは美味しい料理をつくもの」という、塩の普遍的なちからを再認識し、料理における調味・調理の場面で、塩はどんなちからを発揮しているのか、塩のちからと使い方をとりあげてみました。

第六章の「美味しい塩の選択」は、塩の自由化で新しく登場した数多くの塩ブランドの中から、どのように選択するか、商品ラベルの読み方をまとめてあります。

最終章の「21世紀の塩を訪ねて」は、これまでこの本を著してきた過程で絶えず心の隅にあった、ほんとうの塩とはどんな塩か、自分の目で確かめたいと、塩の思想や物語をもった塩を巡る旅で終えています。

塩はその国の食文化と深く関わっています。料理、イタリア料理、中国料理、和食など、料理文化のある国々には、それぞれ独自の料理にふさわしい塩が存在しています。その地の気候や風土から独特の基本調味料がうまれ、多彩な料理が人びとの食生活を豊かにしています。

こうした料理文化の発達に合わせるように、塩職人たちの伝統的な美味しい塩づくりの知恵と技が引き継がれ、その地の風土にあった料理の味を支えています。

さらに塩の食物の保存力や発酵の調節力など塩のちからを利用して、気候や風土に適した伝統的な塩蔵食品がつくられ、食文化が醸成されています。

海に囲まれたわが国では、むかしから海水を原料に塩を採ってきたので、古来、「塩」と「潮」とは同義語で、海水からつくられた塩に親しみを込めて“お塩”と呼んでいます。わが国の塩づくりが土器製塩に始まって以来、2000年に及ぶ美味しい塩の系譜が伝承され、洗練した塩が日本人の繊細な味覚を育んできました。

その味覚はいまも日本人の遺伝子に深く刻まれています。

 

わが国の塩事情

世界の塩の年間産出量は、二億五千万トンほどで、三分の二は岩塩や湖塩で占められ、三分の一は天日塩などの海塩です。

岩塩や天日塩などの塩資源に恵まれていないわが国は、塩の自給率が15%にも満たない、世界でまれな塩の輸入国です。日本のほかに塩の輸入国は、スウェーデンやノルウェーなどの北欧の国々ですが、世界の塩の貿易量の30%もの塩が工業国の日本に輸入されています。

塩の自給率の低いわが国の塩の近代化とは、専売が主導する塩の大量生産を目標にした塩の工業化であったといえます。ひたすら海外の塩の価格水準をめざし、塩の低コストと大量生産を邁進してきた歴史です。

わが国の塩の総需要は年間約860万トンで、8割をソーダ工業用が占め、食用塩は約126万トン。食用塩のうち約100万トンが業務用の味噌醤油、惣菜、レトルト食食生活の食品加工、水産加工の需要で、約20万トンが飲食店と家庭用の需要です。

食用塩の需要は、10年間に平均140万トンを推移してきましたが、塩の消費量は年々減少傾向にあります。その減少の背景は、家庭での料理が減り、調理済食品、加工食品や惣菜、外食の増加、食生活の変化が大きく影響しています

近年、中国、東南アジアからの調理済の加工食品が中食市場に進出、業務用の食用塩の需要の減少を招います。塩の自由化で登場した平釜焚きの自然海塩や輸入塩が塩の市場にあふれていますが、依然として業務用の約9割、家庭用の5割の塩は、旧専売塩で占められており、大手製塩メーカー4社のイオン膜塩と輸入天日塩を原料にしたにがり添加再製塩で食用塩の自給率100%を達成しています。       

 *平成23年財務省調査

 

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増田 幸右 について

1964-1968 武蔵野美術大学 グラフィックデザイン科卒業 1968-1994 広告代理店電通入社 クリエーティブ・ディレクター 2002-2004 立教大学大学院 修士課程 2003-2008 (株)GN21 経営コンサルタント 2007-2010 浦安図書館ボランティアBCU会員 2010-2014 企業ブランドアドバイザー 2006-2014 日本海水学会員
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